第629回番組審議会は10月14日(金)に開かれました。出席委員と当社出席者は以下の方々でした。

〔委員〕
井野瀬 久美惠 委員長、酒井 孝志 副委員長、
道浦 母都子 委員、星野 美津穂 委員、
高見 孔二 委員、小松 陽一郎 委員、
北川 チハル 委員、古川 伝 委員

〔当社側〕
松田 安啓 常務取締役、緒方 謙 取締役、
岡田 充 編成局長、木村 光利 コンプライアンス局長、
矢島 大介 報道局長補佐、西村 美智子 チーフディレクター、
戸石 伸泰 事務局長、北本 恭代 事務局員

審議課題

ABC創立65周年記念『池上彰のニッポン未来塾 ~超高齢クライシス2025~』

<事前視聴 9月22日(祝・木)午後3時~4時58分放送>

番組の良かった点

  • 周年記念番組として戦後の日本社会の歩みをわかりやすくおさらいしながら、これからの10年を占うという構成になっていて、各世代の視聴者に抵抗なくスッと入っていく番組だったのではないか。「視聴者に優しく」という朝日放送らしい番組だなと思った。
  • 2時間を長いと感じさせないテンポの良い流れで、一つひとつのコンテンツが短くきれいにまとめられていると感じた。
  • 今、日本社会が置かれている、あるいはこれから直面する問題を、深刻になりすぎずに、わかりやすく伝えるということで、非常に良い番組だと思った。識者のコメントが適宜入るが、短くも的確に語らせていたのは効果的だった。
  • 2025年問題は避けては通れない、私たち日本人の大きな宿題で、それに向き合って制作された番組の意義はとても大きいと思う。
  • わずか9年後、東京五輪の5年後に2025年という厳しい時代の幕開けが、そして2030年代後半には多死社会が到来するというは大変衝撃的だった。まさに他人事ではなく、自分たちの老後、子どもたちのことなど、今後を考える良い機会となった。
  • パネラーの太川陽介さん、宮川花子さん、塚地武雅さん、岡本玲さんという、各世代を代表するキャスティングも、この番組に適していて良かった。専門的な話題をわかりやすく、深刻になりがちな話題を前向きに展開できていた。特に“笑い”を担う花子さんと塚地さんの語り口が、下品にならず、穏やかなユーモアになっていた点に好感を持った。
  • 太川陽介さんが言っていた「先送り」という言葉にうまく焦点を当てて、個人の問題だけではなく、政治や行政、企業、地域社会など、あらゆる分野に共通しているキーワードだということをうまく伝えられていたのではないか。
  • 「団塊の世代」「高度経済成長」「集団就職」「出生率」「ドーナツ化現象」「都心回帰」「限界集落」等、多くの人が知っているキーワードを上手に時系列で使っていた。また、都市の郊外が「新山村」と呼ばれるようになるとか、「シニアタウン」とか、新しい言葉や事象も紹介していて、社会科の授業的な印象だったが楽しめた。
  • 人口ピラミッドの立体模型とか、都心と郊外の人口の動向等を示す小道具も効果的だったし、スタジオでの介護ロボットの実演には目を奪われた。
  • 番組後半の「何かの役に立ちたい」「皆で助け合うこと」「お互い様」という高齢者の方々からの言葉とその表情が明るくイキイキとしていて、とても印象的だった。嬉しくもあり、ホッとした。

番組の課題

  • 解決策としての部分が弱いと言うか、まちづくりとロボットに頼る社会が見えてくるというような作りだったと思うが、結論があっさりしすぎて、バタバタと終わったので、全て印象に残らなかった。結局、具体的にどうしたら良いのかというイメージができなかった。
  • 2025年に備えていく10年間で、「どうなるの?」の想像力と「どうするの?」の思考というところが少し見えづらい。つまり、今までの歩みの延長線上で考えられないような技術等が次々と出てきている。その辺りをもっと見たいと思った。
  • より踏み込んで紹介して欲しかった点は、未来における科学や技術の進化の予測。2025年段階で、私たちの暮らし方がどうなっているのか。番組では、現状の技術要素の組み合わせを示すにとどまっていた。10年先のテクノロジーは遙か先に進んでいるはず。2025年が課題であるなら、現在開発段階にある、より先端的な技術や製品を見せて欲しかった。
  • 放送局そのものも高齢社会にいかに対応し、いかに持続的に経営を継続するかといったところにも踏み込んで欲しかった。視聴者の生活様式も大きく変化し、モバイルでの視聴が当然となり、住まいの壁面全体がマルチディスプレイ化する等のモデルは、既に数年以上前から提示されている。
  • 2025年、あるいは2050年における状況を直視する想像力を求めるのであれば、立ち位置が2016年のままの議論では不十分。2016年の高齢者と2050年の高齢者は、価値観や発想が異なっているという前提の基に、現在とは異なる高齢社会が到来する可能性があると考えることも、この国の将来を考える上で重要であると思う。
  • 池上彰さんの解説はわかりやすかったが、先生と生徒という作りが、池上さんが出演する他の番組と同じような感じがした。
  • 「ABC創立65周年記念」を謳う番組が、MCとしてテレビ朝日制作の番組で活躍している池上彰さんを迎えた判断は、関西の放送界に同様の人材がいないのだなと、改めて人材面での大阪の限界を感じた。
  • 生徒役のパネラー陣は異色で、ある意味新鮮ではあったが、ちょっとまとまりがない感じがした。クラス委員長のようなリーダー的な存在が入ってくれると、少し安心感があったのではないか。何となくフワフワした感じが番組中ずっと流れていたように感じた。
  • サブタイトルの「超高齢クライシス」という響きで、もう少しハードな切り口のものが見られるのではないかと期待したが、「未来塾」というだけあって、良くも悪くも教科書的な番組と感じた。2025年問題の危機感については、ソフトに扱っているだけに優等生的で、危機感を十分視聴者に伝えきれなかったのではないか。
  • サブタイトルにある「クライシス」が何かというのをもう少しあぶり出せば面白かった。若者が高齢者を「支えたくない」というのが本音で、一方で高齢者や障がい者が殺される事件が起きている。何がクライシスなのか、一通りではないザワザワ感を伝えるのは、テレビにしかできないことではないかと思う。
  • 当事者である団塊の世代の視点で見たが、「高齢者クライシス」と言われて、何となく俯いてしまった。私たちは一所懸命生きてきたと思うのだが……。当事者としては、サブタイトルを「未来に対して皆で考えよう」というようなものに、ちょっとだけ工夫して欲しかった。
  • 「皆でお互い助け合う」というのは必要だが、それだけで対応できる問題でもない。「高齢化は大変なことになっている。消費税を先延ばしして喜んでいる場合ではない」というホラー的な終わり方でも良かったのではないか。いずれにしても、今後も継続的に番組化して欲しいテーマ。
  • 65歳の夫婦が年金だけで暮らそうとすると、85歳までに合わせて1,440万円の赤字になると言っていたが、年金を18万円もらっているという設定だった。国民年金だと満額が今6万5千円、夫婦で13万円。モデルはどんな人たちなのか? そもそも年金ほどバラバラなものはない。それをひとくくりにして短時間で言うのは、あまりにも具体性がなさすぎではないか。
  • 都心への人口再集中に関して、やや批判的なスタンスであった点には違和感を覚えた。都心の子供たちが急増して行政も対応に追われていることが問題なのではなく、今後いかに子育てにふさわしい都心環境を創り出し、持続的に各世代が共に楽しく暮らせる生活空間を確保していくのかが大切な論点のはず。都心をいかに魅力的なものにするのかが、大阪のみならず、世界の大都市が直面している課題である。
  • 全般に日本ローカルの問題として論じている観があった点が残念。世界的には人口爆発が継続しているが、経済成長を遂げつつある中国やアジア諸国は、日本から10〜30年のタイムラグで高齢社会を迎える。私たちは他国に先駆けて経験しているということ、今後直面する課題は、日本だけの問題ではないという視点が最後にあったら良かった。

番組制作側から

  • 3年前から『キャスト』という夕方の報道番組で超高齢社会のシリーズをスタートさせた。1年間に約10本、これまでに約30本の特集を放送してきた。これらを基に、「そもそも超高齢社会とはいったいどういうものか?」「どうしてこうなったのか?」「これからどうなっていくのか?」をゼロから解説する番組を制作することになった。
  • 池上彰さんにMCをお願いした理由は、もちろんジャーナリストであり、我々が積み重ねてきたものをしっかり伝えてくれる方であるということは大前提だが、池上さん自身が2025年に75歳になるという、まさにこの問題の当事者であるということだった。
  • 独居高齢者の取材で、一日中テレビを見ている人がいかに多いかに気付かされた。それは良い意味で、テレビは社会とのつながりであり、しかも無料で偶然に見ることのできるメディアだからこそだと思った。番組を偶然見た人が、超高齢社会というのが何となくわかり、どういうことが問題かということを伝えられるような番組にした。
  • 年金の話については、総務省が出している高齢者全世帯平均の家計の値を基にしている。もちろん千差万別の世帯の方々が視聴されていることは理解していているが、ほんの僅かな時間でもお金のことにちょっと触れたいという判断であの金額を取り上げた。
  • まずは現状、そして他人事ではないということを色々な世代にわかってもらいたくてこういう番組になった。この超高齢問題に関する発信は続けないといけないと考えていて、また特番の機会をもらえればと思う。

以上