第634回番組審議会は4月14日(金)に開かれました。
〔出席委員〕 |
〔当社側出席者〕 |
審議課題
『テレメンタリー2017 おっちゃん、どないですか?~路上生活者に寄り添う若者たち~』
<事前視聴 2017年4月9日(月)午前5時20分~午前5時50分放送>
委員の主な発言
<番組の良かった点>
- 今回の番組は、主人公であるNPO法人代表の川口加奈さんが、路上生活する「おっちゃん」たちの支援を、5年間継続して頑張ってきたことに焦点を当ててとらえていた。その視点が素晴らしい。また「おっちゃん」たちが仕事で自転車に乗っているので、パンク修理ができる、というところから自転車修理・レンタル業を始めたというのは、起業家の発想。彼女が「おっちゃん」たちと同じ目線で一緒に活動していることが、パワフルな映像として画面から伝わってきた。
- 濱田マリさんの大阪弁のナレーションは、軽くてやさしさや温かさ、やわらかさがあって、見やすそうな番組だと印象づけることに成功していると感じた。川口さんが若いのにしっかりしていて、本当に魅力的で素晴らしい。
- テレメンタリーはズシンと来るような内容が多かったと思うが、今回は、内容は実はそうでも、それを明るく見やすくしていてびっくりした。特に番組の最後に出ていた「誰もが何度でもやり直せる社会を目指す」、あれはすごい言葉。また濱田さんのナレーションは抜群。あの「おっちゃん」という言い方が最高。音楽もよかった。
- テレメンタリーを見てこんなに楽しかったことは初めて。見ていてホッとするし、心が安らいだ。本当は内容は重い。でも、重いことを重くぶつけるのではなく、川口加奈さんの人の良さとか気負いのなさを見せたことで成功しているのではないか。
- 再チャレンジ可能な社会をアピールするという前向きな意図をうまく伝える番組になっていた。一方で路上生活者の死亡がどういう推移をたどっているのかなど、凍死のデータで見せるなり、何かしらシビアな側面も出す方法があったのではないか。データをいっぱい入れると、説明調になったり、お説教臭くなったりするきらいはあるが、濱田マリさんに語らせれば、それも軽減できたのではないか。
- 今の路上生活者の問題に、行政や法律が寄り添っていないような気がする。だから、今回は人に寄り添った番組だったが、今度は法律の側を追った作品を作ってもらうと嬉しい。
- こういう支援をしている川口さんを見て、私たちに何かできることはないのだろうかと思わせることはすごく大事だと思う。せっかくなので、私たちも何かアクションを起こすような誘導などがあってもいいなと思った。
- 貸し自転車事業の経営システムはどうなっているかとか、NPO法人の仕組みとか、わからないことはあるが、今回に関しては、「こういう人がいるんですよ」ということだけをちゃんと、しかも楽しく見せることに成功していて、良い番組になっている。
<番組の課題>
- 30分という短い放送番組なので、無難な活動紹介に終わったかなという感もあった。狙いとしての「普通の生活を送っていた人が、ある日突然ホームレスになってしまうことがある。そんな危うさを今の社会は孕んでいる」というメッセージが番組内では生かしきれていなかったのではないか。
- NPOを立ち上げるのは法律的にもすごく難しい。だから、川口さんがNPOを立ち上げるまでにどんな苦労があったとか、仲間をどうして集めたのかとか、資金の問題とかも知りたかった。
- 全編を通じて川口さんが聖母マリアのように見えてしまって、すごい人だな、尊敬できるなと思う一方、あまりにもポジティブすぎて、この人に悩みや葛藤はないのかなと思ってしまった。できれば、川口さんの心の奥底みたいなものをもっと引き出すようなインタビューがあるとよかった。
- 何故今「ホームレス」の問題を取り上げたのかということが、いまひとつわからない。今の大阪の「ホームレス」の現状を濱田さんのナレーションの中で説明していただくと、「だからこれを取り上げたのか」というところが、視聴者により伝わったのではないか。
- 「30分だからこれだけのことしか伝えられない」ではなくて、「30分だからこそ、この課題にこの番組はこれからも取り組んでいきますよ」ということを感じさせてくれるようなラストであって欲しかった。ちょっときれいにまとめすぎて終わったのがもったいなかった。
- 濱田さんの大阪弁のナレーションだが、例えば関東の方がこれを聞かれたときにどう思われるのか若干気になった。「要はホームレス問題って大阪の話ではないの?」「大阪だから」と思われてしまうことを危惧した。
- 番組としては、彼女が頑張っているというところに焦点を当てているけれども、その先に深い闇もあるし、高齢化や若者の生活困窮者の問題など、新しい問題も出てきている。そこへ焦点を当てるような番組を継続して作って欲しい。
番組制作側から
- 欲張ってできるだけいろんなことを見せたいと思った結果、中途半端になった部分もあった。マリア様みたいに見える川口さんの、だめなところやだらしないところも出すことで、より彼女の人間的な部分が見えたかなと思うので、そこはもう少し見せられる余地があったと反省している。
- 濱田マリさんをナレーターに起用したいと思ったのは、川口さんを取材している中で、彼女よりもう少し上の世代の女性の目線から、彼女を見守り、たまに叱咤激励するようなナレーションを当てたかったから。大阪弁でナレーションすることについては、議論もあったが、こだわりたかった。
- ドキュメンタリーを作るときは、必ず重い部分を描かなければいけないのではないかなどと、どうしても言われるが、固定観念にとらわれず、従来にない問題や作り方など、新しい挑戦をしていくことで、もっと色々な人にドキュメンタリーを観て欲しい。
以上