第627回番組審議会は7月8日(金)に開かれました。出席委員と当社出席者は以下の方々でした。

〔委員〕
井野瀬 久美惠 委員長、酒井 孝志 副委員長、
道浦 母都子 委員、星野 美津穂 委員、
橋爪 紳也 委員、淺井 栄一 委員、
高見 孔二 委員、小松 陽一郎 委員、
北川 チハル 委員、古川 伝 委員

〔当社側〕
脇阪 聰史 社長、
松田 安啓 常務取締役、緒方 謙 取締役、
岡田 充 編成局長、木村 光利 コンプライアンス局長、
勝山 倫也 ラジオ局長、橋本 祐子 ラジオ局長補佐、
戸石 伸泰 事務局長、北本 恭代 事務局員

審議課題

創立65周年記念 連続ラジオドラマ『ナデシコですから』
<事前聴取 6月27日(月)~7月8日(金)午前6時15分~6時30分放送>

番組の良かった点

  • 主人公「撫子」役の清水富美加さんの声がとても明るく聴きやすい。他のキャストもキャラクターの味わいがあって好感を持った。ラジオドラマは、言葉と声の力が特に試されるものだと思うが、その辺りをよく生かした脚本で楽しかった。
  • 一番びっくりしたのは、キャスティングを見た時で、「ウワッ、すごい!」と思った。ABCラジオのためによくこれだけ集まったなと思った。
  • これまでのABCラジオのドラマは特別番組だったので、狙いを出すために硬いなと思っていたが、今回は65話もあるせいなのか、テンポも良いし、ゆっくりしていて落ち着いているし、ものすごく良い感じ。
  • 毎回良いところで終わっっている。採用試験の結果がどうなったのかというところで次回に続くとか。この辺は、なかなか素敵なテクニックだと思う。
  • n-buna(ナブナ)さんのテーマソング「花降らし」もなかなか良いと思った。全体の流れとして聞きやすい。
  • SE(効果音)もラジオドラマの醍醐味で、初めは何の音なのか、わからないところもあったが、それを想像するのもとても楽しかった。
  • 我が家のリビングで聞いていたら、妻が食事の準備をしながら笑っていた。調理しながら、「面白い」「元気になる」と、制作者の狙い通りのことをちゃんと言っていた。ラジオって、何かしながら聴くものと思うが、面白ければ耳に入るのだなと思った。
  • 「撫子」の母親が父親の遺影に向かって、「撫子」が採用試験に受かったと報告する場面は、単純な話だが、ホロリと泣かせてくれた。もっと泣かせて、怒って、笑ってというのが出てきたら面白いと思った。
  • これは、いわゆる現代のおとぎ話かシンデレラストーリーであって、今の暗い話のある現実からすると全く違う話で、ストーリーも「こうなるのだろうな」と思う通りに進んでいく。そういう安心感がすごくあって、今の時代に非常に楽しい。
  • ドラマ後もABCラジオをずっと聞いていると、『おはようパーソナリティ道上洋三です』で、リスナーからのドラマの感想を取り上げていた。そういうのを聴くと、「今、どこかで一緒に聴いていた人がいるんだな」というつながりが感じられて嬉しかった。
  • ラジオ番組をラジオで聴くだけではない時代に、ニコニコ動画(Webの動画・音声配信サービス)とセットで放送しているのは素晴らしい。ただ再生回数が1,000回だったり1,500回だったりしているのをどういう風に評価すべきか。
  • 「撫子」が書いているという設定になっているブログも見た。ドラマに出てくる「夜桜お七弁当」というのがどんな弁当なのか気になっていたが、ブログに写真がアップされていて、「想像通りだったな」と、そんな楽しみ方もできた。
  • これまで聴かせてもらったラジオ番組はいずれも長時間だった。今回は1回15分、実質は10~11分。毎日楽しみになるのは、これくらいの長さだからかも知れない。連続ラジオドラマは良いものなのに、近年こういうものがなかったことにびっくりしている。

番組の課題

  • 主人公「撫子」が落語研究会所属の女子大生という設定で、落語の「つる」が出てくるが、標準語なので気持ちが悪い。江戸っ子言葉か大阪弁でしゃべって欲しい。また、せっかく落語を入れるのなら、いかに落語の知識を舞台のラジオ業界に生かすか等の展開も期待したい。
  • 標準語がずっと続くので、「撫子」が神戸に行った時も全然神戸っぽい会話がないし、金沢も金沢っぽくないし、舞台が移動している雰囲気があまりない。神戸の喫茶店の店員は、ああいう標準語ではしゃべらないと思った。
  • 「撫子」と母親が、「撫子」の兄の彼女と食事する場面で、皆で飲んで盛り上がって、15歳上の彼女との結婚をあっさり認めてしまう展開には無理があったのではないか。母親なら、たぶんもっと葛藤があると思った。最終的に認めるのは良いが、あっさりし過ぎ。
  • 「撫子」の兄の彼女が10年前、南イエメンの首都サヌアでテロに遭遇し、前の夫となる男性に助けてもらうというエピソードがあったが、かの地は1990年代には非常に問題があり、2010年代に入ってから内戦が再燃したが、想定されている時期は観光客も入っていた頃で、あの場面のリアリティはちょっと微妙。
  • 「撫子」が交通事故から助けた老女が偶然にもラジオ局の役員の母親で、その関係で「撫子」がラジオ局の契約社員の採用試験を受けて合格したというストーリーは、縁故採用ではないが、コンプライアンス上どうなのか。
  • 「撫子」の就職活動が描かれていたが、娘も就活で不合格を繰り返し「人間否定にあっているようで、精神的にかなり参る」と言っていた。その辺りも少しは描かれていたと思うが、主人公は性格的に切り替えが早く、あっさりしていたので、もっと落ち込んでいる様子が描かれていても良かった。
  • 登場人物全員が幸せなところから始まって、さらに幸せになるというのはどうなのか。複雑な人間関係があって、色々な苦難、不幸な状態から幸せになるから、ドラマツルギーがあるのであって、私自身は根本的にこの番組には向いていないような気がする。
  • 番組内で、「撫子」が書いていることになっているブログへの誘導があっても良いのではないかと思った。たぶん知らないで終わっているリスナーも沢山いるのではないかと思ったので。
  • ラジオ放送をラジオで聴く人が少ない中で、色々なメディアをどう使っていくのか。我々は課題として番組ホームページを見て「これは面白い」と思ったが、一般の人はどこから入るのか。その辺の工夫をもっとしたら、コンテンツを聴く人が増えるのではないか。

番組制作側から

  • ごく普通の20代の女性である主人公「撫子」が、どうやって幸せをつかんでいくのかという物語で、「ホスピタリティ」と「気づき」という2点を彼女の重要なキャラクターとして脚本を書いた。主人公は他人を楽しませることが大好きで、労を惜しまずにしんどいことも引き受け、それが色々な出会いを生んで世界が広がっていくのが「ホスピタリティ」。また「撫子」が、周りの人達の意見を真摯に聞いて、咀嚼して、養分にして、知らないうちに成長していくのが「気づき」。そういう成長劇をリスナーの方々に聞いてもらい、同じように幸せな気持ちになってもらえたらと思って制作した。
  • 「朝聞いて元気になれるラジオドラマ誕生!」というキャッチコピーをつけてPRしている。リスナーにその日一日を元気に過ごしてもらいたいと、毎回、「幸せになれる金言」というのを密かに忍ばせていて、例えば「思いは通じる」とか「人生に無駄はない」とか、元気になれるようなひと言を出演者の誰かが言っている。
  • ラジオで65周年の企画を立てるに当たり、65年前の原点に戻ろうということで、昔のラジオにあって今のラジオにないものを考えたところ、「連続ドラマ」に行き当たった。65年前と違って、今はFM補完放送やWeb等、デバイスが多様化しており、それらに送出することによって、音声コンテンツの可能性やABCラジオの将来性を見極めたいという思いもあり、これに取り組んでいる。
  • ABCラジオはAM波で聴く人が圧倒的に多く、Radikoやニコニコ動画はまだまだこれから。アクセス数も数千ではビジネスにするには全然足りない。数を増やしていくことに取り組み、ラジオファンを増やさないといけないと考えている。

以上