第624回番組審議会は4月8日(金)に開かれました。出席委員と当社出席者は以下の方々でした。

〔委員〕
井野瀬 久美惠 委員長、酒井 孝志 副委員長、
道浦 母都子 委員、星野 美津穂 委員、
橋爪 紳也 委員、高見 孔二 委員、
小松 陽一郎 委員、池内 清 委員,
北川 チハル
 委員

 

 

〔当社側〕
脇阪 聰史 社長、
松田 安啓 常務取締役、緒方 謙 取締役、
岡田 充 編成局長、木村 光利 コンプライアンス局長、
大島 尚 報道局長、藤田 貴久 報道企画担当部長、
平岡 智子 プロデューサー、
戸石 伸泰 事務局長、野条 清 事務局員、
北本 恭代 事務局員

審議課題

カルチャードキュメンタリー『カワイイの森へようこそ』
<事前視聴 3月21日(月・祝)午前9時58分~10時53分放送>

番組の良かった点

  • 「KAWAII」が世界共通語になっており、他国の言葉には訳せない特別な意味があるというのを知って、びっくりした。こういうテーマで番組を作ることに挑戦したのは面白いと思った。
  • 様々な分野の人たちがそれぞれに考える「カワイイ」を語る内容が親しみやすく、歴史の流れを追いながら「カワイイ」のヒントを示していて、今を生きる私たちに平和や価値観等、様々な課題を投げかけてくれる内容だった。
  • とても良いことだと思ったのは、「社会が平和であるから、カワイイが氾濫している」という捉え方。逆に平和でなかったら、「カワイイ」がなかなか使われないのだなと思った。
  • 最後に出演者が「カワイイというのは平和な時代しか言えない。今のうちに言っておいた方が良いですよ」とコメントしたので、そういう平和と女性の解放みたいなところを主張しているのかなと思った。
  • スタジオでの喜多ゆかりアナウンサーと山田五郎さんのトークがすごく面白かった。興味を失いそうになる内容の時も、二人がうまくまとめてくれたので、話についていくことができた。
  • 喜多アナウンサーがカワイイもの大好き派ではなかったのが、偏りすぎない視点を視聴者に与えてくれていて良かった。
  • 藤原彰子の経箱や竹久夢二の美人画等を、かなり強引に「カワイイ」に結びつけている。それはすごく大胆な見方だが、色々なことを調べて、客観的に見えるような形で提示していたので感心した。
  • 今、流行している価値観で過去の様々な事象を予測実証させるところで首尾一貫しているのは大事な視点。国宝の経箱とシンデレラテクノロジーを一緒に扱うのはなかなか大胆で、それを説得するために専門家のコメントで構成しているところは、非常に真摯に取り組まれている気がした。
  • 情報収集力が卓越していたのではないか。実に色々なところから素材を集めていた。平板的な取材だったら、あれだけのものはできない。そこが素晴らしい。
  • とても見やすくてわかりやすい、面白い番組だった。特に、スーパーのタイミングや色、デザインが好きだと思った。BGMも映像によく合っていたのではないかと思う。

番組の課題

  • 「カワイイ」について色々な角度から話を伝え、それぞれすごく面白く解説していたが、全体的にはまとめきれていなかったのではないか。見終わっても、なお謎だらけだった。経箱の裏の模様や、ひらがなへの移行がわずか50年だったという話をもっと追求して欲しかった。
  • どこか散漫な感じを受けた。理由として、「カワイイ」へのアプローチが、平安時代の経箱から現代のプリクラ、また「数式と折り紙で変身」等、多彩すぎたのではないか。「数式と折り紙で変身」は話題としては面白いが、必要だったのか?
  • 視聴者は、ジェンダーもそうだし年齢も様々なわけで、何を「カワイイ」と思うかが違ってくる。その辺のコンセンサスが視聴者との間でどれくらいできていたのかが不安。概念を扱う時は、絶えず具体的なもので形づけていかないと難しい。
  • 子犬や子猫、赤ん坊等、誰が見ても可愛いと思うところを原点にして、そこから各人の「カワイイ」に発展させれば良かった。原点のところで共有できることがあったら、意見がもう少しまとまったかも知れない。
  • 平安時代では、「うつくし」の方が今で言う「カワイイ」に近い。当時の「かわいい」は「哀れ」という意味。「カワイイ」という言葉の価値や使い方が時代の中で変わってきている。その語源や変遷のアプローチもどこかであれば良かった。
  • 日本語の「カワイイ」がフランス等で使われているという話で、当地の若者たちだけではなくて、例えばフランスの学者が「カワイイ」をどういう風に捉えているのかがあったら良かった。
  • 国風文化の話で、外来文化を日本化することの繰り返しが日本文化だと言うのであれば、現在の「カワイイ」も、外来文化をいかに日本化したのかという文脈で語るべきだったが、そこが弱かったので、日本文化の本質論に至らなかったと思う。
  • 耳に残ったのは、戦争をすると「カワイイ」がないとか、「漢字=男文化・戦争」という話で、簡単すぎるかなとは思ったが、反戦のメッセージにはなっていた。
  • 「カワイイは平和な時に使う言葉」という話があったが、以前「戦争中でも女性はこんな可愛いモンペをはいていた」という新聞記事を読んだ。つまり、戦争中でも女性はお洒落をするし、カワイイものを見つける。女性にとってカワイイは最強で戦争より上という話にした方が、狙いがはっきりしたのではないか。
  • 「カワイイ」の起源とされた藤原彰子の経箱は、末法思想の時のもの。厭世的な、未来がないという中で出てきた「かわいらしさ」ということを考えた場合、「平和な時代だからカワイイといえる」という話にどうつながるのか?
  • 「カワイイが出てきたのは1970年代くらい」という話があっさり出てきたが、もう少し詳しく女子高生たちが「カワイイ」を連発する起源が知りたかった。
  • 「カワイイ」という言葉が社会に氾濫していることに違和感を持っている。食べ物も「カワイイ」、建物も「カワイイ」。日本語はもっと語彙が豊かなはず。それを追求してくれる番組だと思ったら、そうではなかった。
  • 今の「カワイイ」は、政府がクールジャパンで「カワイイ文化」を海外に売ろうという戦略の下に定義され始めたものもある。政府がいっている「カワイイ」ではなくて、一般の若者が新しい「カワイイ」を生み出しているというフェーズも出して欲しかった。
  • スタジオのやりとりは面白かったが、直前のVTRの話とずれることがあった。例えばVTRでイラストレーター・田村セツコさんが言った「密やかな目に見えない謙虚な心持ちみたいなものがなければ、カワイイとは言えない」という話と、スタジオでの「未熟なものがカワイイ」という定義は一緒かなと思って見た。
  • 若い人でも、社寺ガールとか、御朱印ガールとか、アイドルで古社寺大好きという人がいる。そこに文化企画番組のマーケットというか、関心のある人はかなりいるはずなので、そこをターゲットにするのが一つの方向性ではないか。

番組制作側から

  • 年に数本制作している文化財番組の中の1本。これまでの文化財番組は主にモノの紹介だったが、そうではないものを作ってみようと思い、今回は「カワイイ」という概念について番組を作ってみた。手法としては、今までとは違う形で、オムニバス的に色々集めたということと、その間にスタジオをはさむということにチャレンジした。
  • 最初からオムニバスに、バラバラにしようとは思ってはいなかったが、リサーチすると、どうしても一つにまとめることができなかったのと、それこそが「カワイイ」の持つ本質なのではないかと思ったので今回の構成になった。
  • 現代の私たちが過去のものを見て「カワイイ」と思うことは色々あるが、その時代の人が「カワイイもの」として作ったものにこだわり、調べてみた。そこで平安時代の京都の女性・藤原彰子が作らせた経箱にたどり着いた。通常の経箱の作り方を逸脱して、裏にちょっと描いたというのが、「カワイイ」のオリジナル精神だと思い、それを軸に番組を作ろうと思った。
  • 「カワイイ」の語源や変遷については、ものすごく調べ、色々撮影もした、それを映像で表現するのに悩み、省いてしまった。
  • 番組で言いたかったことは、「カワイイ」というものは、そもそも「私はこれが良いと思う」という前向きな意見が表れたもので、それが、たとえ逸脱していても、他人がどう思っても、自分が良いと思うものが良いのだということが一つ。それを言える世の中にして欲しいというのが二つ目。
  • 文化財番組だが、最近は文化企画番組という風にポジションを変えている。幅広い層の人に見て欲しいし、特に若者に「何が起きているの?」と気にしてもらえるような番組にしたいため。

以上