第621回番組審議会は1月15日(金)に開かれました。出席委員と当社出席者は以下の方々でした。

〔委員〕
井野瀬 久美惠 委員長、酒井 孝志 副委員長、
道浦 母都子 委員、星野 美津穂 委員、
橋爪 紳也 委員、淺井 栄一 委員、
高見 孔二 委員、小松 陽一郎 委員、
池内 清 委員


 

 

〔当社側〕
脇阪 聰史 社長、
松田 安啓 常務取締役、緒方 謙 取締役、
岡田 充 編成局長、木村 光利 コンプライアンス局長、
酒井 克紀 考査部長、芦沢 誠 ラジオニュース担当部長、
東浦 陸夫 ゼネラルプロデューサー、
森山 浩一 ゼネラルプロデューサー、
戸石 伸泰 事務局長、野条 清 事務局員、
北本 恭代 事務局員

審議課題

1. 平成27年度文化庁芸術祭参加作品
  戦後70年特別ラジオドラマ『南号作戦 最後の輸送船 東城丸』
  <事前聴取 2015年11月8日(日)午後9時~9時55分放送>

2.番組基準改定について

番組の良かった点

  • 戦争をテーマにしながら、あまり辛いとか残酷だとか、そういうことを感じさせなかった。私たちは、どこか希望が見えるものでないと、なかなか見たり聞いたりできないが、そこをきちんとおさえていると思った。やさしさを伝えながら非常に難しいことを考えさせられるドラマだった。
  • 非常に感動的な良い作品だった。1時間ドラマだが、聞き終わって長さは全く感じなかった。重たいテーマを非常にテンポよく聞けて、若い人には特に良いだろうなというのが印象。

  • 民間の商船が徴用され、いかに悲惨な目にあったかというのは、海事の歴史では有名な話。また、海軍の兵士よりも徴用船の民間人の方が亡くなっている割合がすさまじく高く、4割を超えているということもしばしば言われている。そういうことの再評価をしていくという意味で大事な企画だと思う。
  • 戦後70周年で、しかも安保関連法案が色々議論されている時代の中で、8月15日以降もこういう番組を放送することの意義はものすごく大きい。かなりズシンとした感じがした。
  • 聞きながら「戦争って無茶苦茶やな」「何のためにこんなことするねん」と思った。戦争というものの悲惨さはもちろんだが、虚しさとか理不尽さとか愚かさというものも改めて感じた。
  • このようなあまり知られていない歴史を掘り起こし、伝えていくことで風化させないというのが、メディアの使命の一つであると改めて思った。
  • 手記からのドラマにということで迫力があった。声優の方々がとてもはっきりした声で、台詞を大事に伝えようとしていた。効果音もとても良かった。

  • ナレーターの山本陽子さんをはじめ、津川雅彦さんや名高達男さんら、立派な俳優が出演していて感心した。

  • シナリオを書く時に資料をよく精査し、コンペイトウだとかタバコだとかアサリの味噌汁だとか、言葉は悪いが、あざといまでに色々なところに伏線を張っていた。また物資だけでなく兵隊も運んでいたことや、ケツバットや軍人勅諭の場面を描いたことで、当時の状況がすごく伝わったのではないか。

  • BGMの『花はどこへ行った』の使い方が唐突で、何故、太平洋戦争のドラマでいきなりベトナム反戦フォークが出るのか? 良くないとは言わないが驚いた。でもインパクトは強くあった。

  • 『花はどこへ行った』に違和感はなかった。あれはたぶん「これから戦後が来るんだよ」ということを伝えるためだと思った。

  • 映像で見るのとは違って、想像がふくらんでくるし、臨場感という意味でも質感という意味でも、「ラジオドラマって良いな」と思った。

  • 最後のところの「忙しい戦後が始まった」という表現がとても印象に残った。忙しい戦後の中で紛れていたが、今、70年目だから思い起こせるものとか、直後には思い出すことにあまり意味がないと思っていたことが、70年以上過ぎていくと、それが逆に重要になってくるというものもこれから出てくると思う。そういう仕事をどんどんやって欲しい。

番組の課題

  • ラジオでは、大きいものが動くというのは、ものすごく表現が難しい。この場合は東城丸。むしろ東城丸を擬人化して、「私、東城丸は、今回、石油を運ぶ任務を受けた」という風にすれば良かった。全体でいうとラジオとは合っていないような気がした。
  • これは、ノンフィクションを基にしているものなのか、全くのドラマなのか、疑問を持ちながら聞いた。ドラマであるならば少し単調な気がした。手記があったのであれば、冒頭にそのことを伝えて、そこからドラマに入っても良かった。
  • 船団の貨物船が機雷で沈められて、主人公の三席通信士が「助けに行こう」と言うのに、「助けに行ったら、またそこで狙われるから早く逃げるんだ」と言われて、すっと行ってしまう。ここに主人公として悩むような脚色があると、もっと「戦争って何だろう」というのを考えさせたのではないか。
  • 制海権を奪われている中、まさに特攻で「石油を取って来い」ということをやらされる。時期が昭和19年の終わりから20年の1~3月、終戦の半年前にこんなことが行われていた。もう少し時期との関係を強調したら良かったと思った。
  • 聞いただけではわからない言葉がいくつもあった。「カイボウカン(海防艦)」とはいったい何のことかと。「機雷」はさすがにわかったが、たぶん若い人は「灯火管制」もわからないと思う。ラジオの難しさは、結構そういうところにあるし、ここをうまく伝えていくのが難しい時代になったかなと思った。
  • 番組審議会で聞く度に、ラジオドラマは素晴らしいと思うが、普段はついぞ聞いたことがなくて、もったいないという気がする。たぶんラジオドラマには少ないながらも熱烈なファンがいると思うし、定期的にできないものか。聞いて「良いな」と思う人を増やしていくような取り組みがあっても良い。

番組制作側から

  • 実際に東城丸に乗っていた渡邊豊彦さん(89歳)の手記が原案。プロデューサーが、たまたま渡邊さんの息子と知り合いで手に入れた、ネット上にも出ていない私家版の手記だった。
  • シンガポールまでの5千キロの旅がどれほど苛烈で大変なものだったかは手記でよくわかるが、それだけを伝えるのではなく、渡邊さん自身が18歳で乗船した時の気持ちも綿密に取材し、ドラマ化した。時代は違うが、色々なことで悩んでいる現代の若者に対しても、このドラマを通して夢や希望、家族や友人の大切さを感じて欲しいと思い制作した。
  • 報道局制作のラジオドラマだが、キャスティングや演出でテレビ制作の力を借りる等、社内横断的な挑戦的な企画だったと思う。
  • 演出したテレビ制作の担当者は、ラジオドラマをやるのは初めて。どうやったら伝わるかというのをとても面白がって制作した。今後もラ・テ兼営局の強みを、テレビでも共有しながらやっていけたら当社の力になると思う。
  • 「大きいものを動かすのはラジオにはふさわしくない」というのを敢えてやった感がある。「船はどうなっても良いから油だけ持ち帰れ」という理不尽な軍の命令下でも健気に任務を遂行しようとする東城丸を主人公にして、海の男たちが「この子だけは沈めたらあかん。面子がすたる」と思って頑張るという話にしたいと思った。
  • いわゆる徒手空拳というか、東城丸には、オーケストラとかハードロックではなく、ギター1本のフォークソングでやりたいという気持ちがあり、BGMにジョーン・バエズの『花はどこへ行った』を採用した。また曲のスピード感をドラマに反映させたかった。

番組基準改定について

  • 今回の番組審議会では、朝日放送番組基準の一部改正についても諮問された。朝日放送番組基準は、その一部を日本民間放送連盟の放送基準に準拠している。今回の一部改正は、今年3月の民放連放送基準第149条の改正に伴うもので、放送法の規定に従い審議された。その結果、番組審議会より「妥当」との答申を得た。

以上