第611回番組審議会は1月9日(金)に開かれました。出席委員と当社出席者は以下の方々でした。

〔委員〕
井野瀬 久美惠 委員長、酒井 孝志 副委員長、
道浦 母都子 委員、星野 美津穂 委員、
橋爪 紳也 委員、淺井 栄一 委員、
高見 孔二 委員、小松 陽一郎 委員、
池内 清 委員、水野 由多加 委員

 

 

〔当社側〕
脇阪 聰史 社長、
松田 安啓 常務取締役、梅田 正行 取締役、
岡田 充 コンプライアンス局長、大島 尚 報道局長、
藤田 貴久 報道企画担当部長、
中田 陽子 ディレクター、
戸石 伸泰 事務局長、野条 清 事務局員、
北本 恭代 事務局員

審議課題

平成26年度文化庁芸術祭参加作品「この子のために~命をつなぐ特別養子縁組~」
<事前視聴 11月25日(火)午前9時58分~10時58分放送>

番組の良かった点

  • 関係者が、ちゃんと顔出しもしているし、本当の声が伝わっているので、ディレクターとの信頼関係がよくできていると思った。
  • 今回のような重要なテーマを、知らない者にもわかりやすく、端的に、色々な問題提起も含めてしてくれているのは、テレビの使命として大きな意味があると思った。
  • 特別養子の27歳の女性が、生みの母に会いたいと願いながら、なかなかたどりつけない時に言う「特別養子縁組は、母が子を捨てるためにあるのか、子どもが幸せになるためにあるのか」という言葉が重く響いた。
  • 特別養子の女性が、まだ見ぬ生みの母に会いに行く場面は、その会いたいという気持ちと、まだ見ぬ実母に対して「自分が生まれたことで、お母さんに迷惑をかけたのではないか」という言葉に感動した。
  • 自分に引きつけて見た。子どもができない夫婦だったので、子どもが欲しい親の視線で見た。実母を探す27歳の女性の話も、いくら養親が一所懸命育てても、「生みの母に会いに行きたい」という気持ちになるのかと、色々なことを考えさせられ、何回も涙を流した。
  • ものすごく切なかった。生みの親の視点、育ての親の視点、子どもの視点が入り交じり、それぞれの正解がないだけに切ない。一方で、晩婚化、少子化、児童虐待の多発などの問題が迫ってきて見応えがあった。
  • 向井亜紀さんのナレーションが温かくて良かった。向井さんは、代理出産を経験した方なので、そういうことも含めて選んだのかと思った。
  • 米国まで取材に行ったのは素晴らしい。6歳女児の米国人の養親が「彼女がどこで生まれたのかは関係ない。私たちは家族だ」という場面、心臓に障害がある乳児の米国人の養親が「私たちにとって、この子はパーフェクト」という場面が感動的だった。
  • 米国の養子縁組あっせん団体の代表が言った「日本の人たちに、もっと色々な家族の形があるということを知って欲しい」という言葉を結論だと思った。日本ではまだ血縁などを重んじる傾向があるが、国籍が違っても、肌の色が違っても、家族ができるということを言いたかったのだろうと思った。
  • 特別養子縁組を支援するNPOが主催するパーティーで、子どもを囲んで養親と実母が対面する場面は、なかなか重いが、素晴らしいことだと思った。
  • 『この子のために』というタイトルが良い。養子制度は、「家のため、親のため」にあったものが、今は「子どものため」にとなっている。そういう時代の流れがある。そこをしっかりアピールしているのは素晴らしかった。

番組の課題

  • 特別養子縁組制度は、27年前にできた時に、実子扱いになるということですごく話題になったが、今はあまり利用されていない。そういう制度があることを知らせるだけでも意味のある番組。ただ、特別養子縁組と普通養子縁組の違いがよくわからなかった。そこはもっと丁寧に言って欲しかった。
  • 特別養子縁組では、子どもは養親の実子扱いになるが、戸籍には「民法817条の2による裁判確定」と記される。即ち子どもに養子であることがわかってしまう。一方で実の親に関する情報開示は不十分。そういう制度の矛盾をもっと強く出して欲しかった。
  • 特別養子の女性が、生みの母に突然会いに行く場面は大胆すぎないか。普通は手紙を書くなどするのではないか。演出的には、どうなるのかドキドキしながら見たので良かったのだろうが。もしも実母に拒絶されたらどうするのか。そこまでやって良いのかと思った。
  • 特別養子の女性が、生みの母を探す話は、正直、彼女一人だけであそこまで探せたのか疑問に思った。ヤラセではないと思うが、たぶん取材者が協力したのだろうと思った。だとすると、むしろディレクターも画面に映り込むなどして、「協力した」ということを前面に出した方が自然だったのではないか。
  • 特別養子の女性の養親は、61歳と43歳の時に養子を受け入れ、以来20数年間、女性にそのことを気付かせずに育てた。すごく立派な両親だと思うし、彼らの話をもう少し聞きたかった。
  • 特別養子の子どもたちの実名が出ていたことにひっかかった。彼らは「あの子、養子やねんで」とささやかれながら育っていかざるをえないのではないか。そういうものに耐えることを最初から押しつけられているのではないか。
  • 子どもの視点、生みの親の視点、育ての親の視点というように、色々な立場の視点が出てくるため、心の整理がつかないまま終わった。出生の話、子どもを手放す側の話は必要だったのか。批判的な要素もあると思うし、そこを切り離して、どんな形で生まれてきても、「この子には親がいない。だから皆で立派に養子にしてあげようじゃないか」というような作り方に割り切っても良かったのではないか。
  • こういう番組を作るのなら、朝日放送は年に一回は特別養子縁組について放送して欲しい。番組では、特別養子縁組を支援するNPOの母子寮から無断でいなくなった女性を紹介していたが、彼女のその後を伝えていないので気になった。ぜひ続編で伝えて欲しい。
  • 中京テレビ(日本テレビ系)が、同じ特別養子縁組をテーマにしたドキュメンタリーを2012年と昨年に放送した。それらと比べて、朝日放送らしさが出ていたかどうか今一つわからなかった。
  • ドキュメンタリーは作家性と同時代性が大事。例えば野田聖子衆議院議員らが2012年に「養子縁組あっせん試案」を公表したが、その話がどうなったのか、番組では紹介していない。そういう最新情報がないので、同時代性がよくわからなかった。
  • 米国人の養子になった6歳女児がかわいくて、すごく気に入ったが、彼女は米国に来た当初は「怖かった」と言っていた。要するに子どももけなげに生きている。あの子たちがどう思ってやっていくのかは今後も取材して欲しい。
  • 国境を超えて養子縁組をすることの危うさや日本の特殊性がよくわからなかった。考えさせられたのは、障害のある子どもを日本人はなかなか受け入れなくて、最終的に受け入れたのは米国人だったこと。ここにも論点があると思ったが、あまり展開しなかった。
  • 養子制度に関して「米国は素晴らしい」的な印象になっていたが、問題があるから対応する法整備が必要だったとも言える。翻って日本では、国会で野田議員らの法案が止まっていること自体が実は大問題。その辺を取材して欲しかった。
  • 国境をまたいだ問題に関して、例えばBBCなどと共同制作というドキュメンタリーの作り方もある。民放は予算が限定されていると思うが、海外取材を継続してもらいたい。

番組制作側から

  • 特別養子縁組は、生みの母が子どもと別れることが前提となっている制度。子どもが育っていくと、実の親はどんな人だろうと考えるようになる。「真実告知」という形で扱ったが、そういった、ある意味犠牲の上に成り立っている制度。その上で、本当にこの制度が良いものかどうかという価値判断基準は、「子どものためになっているのかどうか」と考えた。最終的に伝えたかったことは、色々な家族の形があっても良いのではないかということ。
  • 個人的には、特別養子縁組は良い制度だと思う。できれば知ってもらって、できるだけ家庭の中で育つ子どもが増えて欲しいと思って制作した。一方で、価値観の押しつけにならないように気をつけた。放送後にツイッターで「子どもを手放す生みの母の気持ちがわからない」などの感想が寄せられるなど、人によって子ども観や人生観が違うので。
  • 中京テレビの番組はもちろん見た。そこに引っ張られないようにと思いながら作った。ただ、中京テレビの番組は、性犯罪をどうとらえるかという話で、それはそれで意義深いが、特別養子縁組制度そのものを問うているのではないと思い、根幹に戻って、「子どものための制度として広めていきませんか?」と訴えようと思った。
  • 生みの母を探す特別養子の女性は関東在住で、自力で実母が住む広島に行くことが金銭的な面も含めて難しかったが、彼女は「自分の中で何らかの結論を出したい。絶対に会いに行く」と心に決めていたので、無理やり会わせたわけではない。3年前に育ての母から「産んでいない」と聞かされ、心を病むまで悩んでいた。「このチャンスを逃すと、一生会うことができないと思う。一緒についてきてください」と言われての取材となった。実は、会えなかった時のために手紙は書いていたが、会えたので、その場面はカットした。
  • 乳児の実名表現については、もちろん養親のOKがあったからということに尽きるが、彼らは、そもそも親子関係の作り方が最初から違う。「生みの母がいて、育ての母がいて」という前提の中で生きていく。それを隠すことではないという考えにおいては、押しつけと言われたらそうかも知れないが、耐えるものではないと思う。
  • 昨年『出生前診断』の番組を作った。生まれる直前、これから生まれるということをテーマにしたが、次のテーマとして生まれた子どものことを考えたいと思った。同時代性を言われたが、子どもに対する虐待や事件が多い中で、「この国は子どものことを本当に考えているのか?」という問題提起をしたかった。
  • この問題をずっと継続してやっていこうという思いはあるし、既に相当取材している。米国の話も、放送された部分以外でも取材している。母子寮からいなくなった女性のその後も調べている。貧困や虐待が根深くあるので、その同時代性からこの問題を取り上げなければいけない。今後は、日頃の報道番組の中で特集として放送することも考えたい。

以上