第586回番組審議会は6月8日(金)に開かれました。井手雅春委員が退任され、今回から新たに阿部圭介委員が審議委員に就任されました。出席委員と当社出席者は以下の方々でした。
〔委員〕
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〔当社側〕 脇阪 聰史 社長、 和田 省一 専務取締役、田仲 拓二 常務取締役、 大塚 義文 取締役、松田 安啓 編成局長、 山本 泰弘 広報局長、 深沢 義啓 ゼネラルプロデューサー、 内片 輝 プロデューサー(監督)、 兼岩 克 制作技術課長(照明)、 戸石 伸泰 事務局長、野条 清 事務局員、 北本 恭代 事務局員 |
審議課題
『土曜ワイド劇場「アナザーフェイス~刑事総務課・大友鉄~」』
<事前視聴 5月26日(土)午後9時~午後10時51分放送>
番組の良かった点
- 何よりも人を殺さないのが良い。殺人事件でないものを描いてちゃんと視聴率がとれている。すごく良いことなので、これからもその方向に向かって欲しい。
- 今回の作品はクライムサスペンスではなくて刑事を主役とした人情ドラマ。この種のドラマは、昔はエド・マクベインの小説『87分署』を原作とした連続ドラマ「わが町」や朝日放送の「部長刑事」などがあったが最近は少なかった。このような物語にも可能性があることを示したのではないか。
- ドラマ制作のノウハウというのは放送局の財産。いったんなくしてしまうとリカバリーが大変。細かいノウハウが伝授されていくこと、例えば美味しい弁当をスタッフにどうやって配るかとか、そういう知識も含めて。映像文化にとっても大きな財産になると思うので維持していっていただきたい。
- とても豪華だった。例えば埼玉スタジアムによくあれだけの人を集めたと思う。そういう大がかりな仕掛けも、視聴者を引きつけるものになっていたと思う。
- 映像がきれいだった。映画のような質感だった。特に子どもが監禁されていたところに光が差し込んでいるシーンはすごく印象的で、画作りにも非常に凝っていた。
- 住宅地の階段のシーンが情景としては印象深い。戦前から日本映画には階段がよく出てくる。階段というのは日本人の心にとっては強力なツールなのかなと感じた。
- 派手さはないが、テンポが安定していて、しかも全体的に静かな緊迫感が感じられ、アッという間に見ることができた。
- 主人公が子育てと仕事の間で悩んで、しょっちゅう携帯電話に上司からの着信が出てくるという場面は身につまされた。30代~40代の視聴者は、男性も女性もかなり感情移入して引きつけられて見たのではないか。
番組の課題
- 黒谷友香さんはヒロイン役で、新聞のテレビ欄では出演者の2番目に名前が書いてあったが出番が少なかった。見ていて裏切られた感じがした。シリーズ化するための布石かと思った。
- 2時間ドラマの配役があまりにも決まりきっていないか。今回も犯人役が決まりきった人だったので、もう少し意外な人物にして欲しかった。ドラマの面白さというのはもちろん内容だが、それ以外にも「あの人がこんな役しているわ、面白いな」というのがあると思う。
- 刑事ものってどうして妻がいないのか。今回も妻がいなくて、子どもを育てている父親。そういうのがパターン化している。韓国ドラマ『ソウル江南警察署』の主人公の警官も、妻を亡くして男の子を育てていて、女性記者と恋愛になりそうで、とても似ている。だからどこかで見たような感じがしてしまった。
- 主人公たちが身代金を運ぶ女性たちをコンサート会場で追跡するシーンで、唐突に見失ってしまう。他の観客と同じような服装にして、人ごみの中にまぎれてしまい見失ったという設定にしたのだろうが、かえってわかりにくくなっている。原作では、主人公たちが入場制限にひっかかって追跡できなくなるという設定で説得力があったが。
- 誘拐された子どもの父親が本当の父親ではなかったというエピソードは要らなかった。エピソードを加えることによって面白くしようとしていることが、逆に邪魔しているのではないかと思った。
- 警察取材をしていた経験でいうと、主人公が上司のいうことを聞かないで家に帰って大丈夫なわけがないし、コンサート客全員の手荷物チェックもそもそも犯人に見つかってしまうだろう。時々内容で「?」と思うところがあった。
- 主人公が所属する刑事総務課は、おそらく庶務的なところというイメージだろうが、警視庁では特命捜査など結構重いミッションもやっている。刑事総務課で主人公が何をしているのかというのが全く描かれていなかったので気になった。
- こういうドラマは、原作が切れた時にも続けるくらいの構想があって、スピンアウトで映画までいくという迫力をもってぜひ挑戦していただきたい。2時間の中で解決していないような要素がもっとあれば、連続して引きつけられて見られると思う。
- テレビドラマと映画のクォリティの差が今なくなってきている。デジタル化によって簡単に映画が撮れる状況の中で、テレビドラマとは何たるかということをもう一度考えなければいけないということを、改めて今回のドラマを見て思った。
番組制作側から
- 黒谷友香問題については、一つはストーリーを作る上で、主人公に対するヒロイン的なキャラクターを置いておきたかった。キャスティングとしても、黒谷さんが出ないと単純に若い男性が見づらくなるのではないかということもある。撮っている最中にパート2が決まっているわけではなく、(シリーズ化の)確信犯というわけではありません(笑)。
- ドラマの長さ自体は90数分しかなく、劇場映画に比べると短い。原作を90分に落としこもうとすると、何をカットしていくかというのが問題になる。そういう意味で黒谷さんのことであるとか、優先順位をつけて、お客さんに楽しんでもらうためにはどのキャラクターを残すべきなのかというのは一番悩ましい部分。
- 警察のリアリティの問題で、どこまで追求するかはスタッフの中で気にするところ。リアルとリアリティの違いというのがあると思う。警察のことに詳しい方からすると、「何だ、そりゃ」という部分はきっとあると思うが、その辺りをどの程度のリアリティにするかは腕の見せどころ。全員を満足させるのはちょっと難しいが、ほとんどの方を良い意味でだませたら良いと思いながら設定している。
- 5万人の群衆シーンというのはテレビドラマには間違いなく手に余るので、どの程度でおさめるのかというのが一番悩ましいところだった。スタジアム内での追跡シーンの原作と映像の違いは、その辺りを工夫した結果だった。
- 子どもの監禁場所で光の差し込みを入れたが、向かいの古い民家のベランダからしか差し込みを入れられないという状況で、まずはそこに頭を下げにいって何とかOKをもらってあの灯りを作ることができた。現場はそういう苦労から始まった。
- 内片組の特徴としては、全体に光を当てる陰影だけではなくて色にこだわってやっている。カメラの設定であるとか照明につけるフィルターであるとかを駆使して、そのシーンに合った色を現場で作っている。こういう作業を編集でやるところが多いと思うが、そうすると肌の色まで極端に青くなったりして違和感のある映像になるので。
- 映像をどういう風に伝えるのかを一番気にしている。そのシーンに合う芝居を役者さんにしてもらって、それをどう撮ったら一番視聴者に伝わるのかを考える。一番良いサイズはどれか、どんな角度が良いのか、どういう編集をすれば伝わるのかという部分。色についても、例えば家庭のシーンは温かい色合いになっている。そのシーンの意味合いが映像によって増長されるべきだと思うからです。
以上