第635回番組審議会 5月12日(金)開催

〔出席委員〕
井野瀬 久美惠 委員長、道浦 母都子 委員、
星野 美津穂 委員、橋爪 紳也 委員、
淺井 栄一 委員、高見 孔二 委員、
小松 陽一郎 委員、北川 チハル 委員、
古川 伝 委員

 

〔当社側出席者〕
脇阪 聰史 社長、
緒方 謙 取締役、山田 裕之 取締役、
清水 厚志 編成局長、株柳 真司 コンプライアンス局長、
大島 尚 報道局長、藤田 貴久 報道企画担当部長、
木戸 崇之 ディレクター、田中 徹 事務局長、
西澤 萠黄 事務局員、北本 恭代 事務局員

 

審議課題

国難災害 ~ニッポン 2000年の「宿命」~
<事前視聴 2017年5月4日(木)午前9時55分~午前10時53分放送>

委員の主な発言

<番組の評価点>

  • 冒頭の気候変動や災害と、平家滅亡など為政者の盛衰や人々の暮らしとの相関、符合など、とても面白いと思った。木の年輪から当時の気候だとか降水量までわかるというところに関心を持って見た。
  • 気象現象と政治の関わりをしっかりアピールしていて、興味あるテーマ。映像も素晴らしかった。避けたいけれど見たくなる、そういうすごいコンセプトの番組。
  • 一つひとつ丁寧な解説で、無理なく自然に流れが組まれていて、とてもわかりやすい構成だった。今までと違う視点から災害というものが考えられた。気候学から歴史を学ぶということで、木の年輪の研究をされていたお話も大変面白かった。「国難災害」という大きなタイトルにひきこまれ、とても良い流れで話がわかりやすかった。
  • この種の番組で大事なのは、歴史で過去これまでにこんなことがあったということを絶えず繰り返し媒体で言っていくこと。終戦前後に連続で1000人亡くなった地震が4つあったということ自体、誰も知らない状況の中で番組を作る意義は大きい。
  • 3.11後の地方財政を棒グラフにした、あの立体的な地図を見ると(被災地の財政が黒字でそれ以外が赤字ということが)一目瞭然。あの地図はすごく有効だった。情緒的に被災地とか被災者に偏ってしまう部分をグラフや地図で客観的に冷静に見せるのは大事なこと。
  • 一番の問題はモラルハザードのリスクの部分で、それをこの番組が訴えられているのがすごく響いて、大事なことだと思った。一方で復興のコストが国レベルで示されているので、減災に備えて前倒しで対策をどんどん打つべきだし、「災害を国難にしてはならない」という貝原俊民・元兵庫県知事の素晴らしいメッセージ、これは継続的に色々な形で発信していくべきではないか。

 

<番組の課題>

  • 番組のテーマも素材も大変良くて、今こんな研究がなされている、年輪でこんなことがわかってしまう、被災地より被災地以外の経済ダメージが大きいなど目からウロコの情報があった。国家の危機と災害の関係、歴史の検証も丁寧に展開されて、私たちが今抱えている問題の解決のヒントを探るというプロセスは感じた。でもまとめ方でモヤモヤした。常に安定した社会基盤を作っておく、環境の変動を乗り切る術を社会自身が身につけていかないといけないといわれても、核心の回りをグルグルしているようなもどかしさがあった。私個人はこれを見てこれからどうすればよいのだろうと考えてみてもすぐには思いつかないし、突き放されたような途方に暮れる感じがする。
  • 小松左京さんの書かれた「日本沈没」を読んだときに、「こういうことがあるかもしれない」と思ったことを今回思い出した。日本は政治現象と自然現象の両方を国際的にも国内的にも抱えているのに、こんな風にのんびりしていてよいのかなと思った。とにかく色々なことを考えさせられたが、南海トラフ(地震)の予知や防災をどうしたらいいかは、わからなかった。
  • 今回は災害現場の人たちに寄り添うような番組とは違うが、冒頭被災した元兵庫県知事の話から入っているところに違和感があった。「何をもって国難となる災害か」というきちんとした定義のないままで、漠然としている。災害の中で「国難」となるものはごく限定的で、「スーパー都市災害」「スーパー広域災害」に限定されるはず。番組の中でそこが「伸び縮みしていて」理解できなかった。
  • 1時間で色々なものを詰め込み過ぎているのではないか。色々なエピソードが消化しきれないままに次に移ってしまっていることが物足りなさにつながったのではないか。
  • 災害があったら奪い合う、混乱する、戦争になるというのは、なんとなくわかる。その後、関東の地震があって、江戸幕府が滅びるとか、だんだんこじつけっぽくなるが、それでも良い。「私はこれが言いたい」という風にするならそれだけで番組を作ってほしい。
  • 気候が大きな影響を与える農業社会の時代、地震・火災が大きな影響を与えるインフラ・文明の時代、とここまでで話が終わっているが、正にICT、IOTの時代を迎え、インフラの質が変わっているので、今後の災害との関係のありように関する示唆もあれば、作品の幅がさらに広がったのではないか。

番組制作側から

  • 2011年に東日本大震災、その後の原発事故で、収束の先が見えない中、さらに熊本地震が起こり、さらに南海トラフ大地震などが警戒されているという状況で、「果たして日本はどこへ行ってしまうのだろう」という漠然とした不安を抱いた。何か将来を予測しながら、我々日本人の生き方を考え直すような番組ができないかなと思っていたところ、事故で亡くなられた貝原俊民・元兵庫県知事が「このままいくと日本は国難に陥るのではないか。果たして日本の国力だけで国を維持することができるのだろうか」という言葉を遺されていたことがわかり、これをきっかけに何か考えられないかと思った。また、以前から歴史番組を作ってきたので、歴史から何か学ぶことがないかと調べてみたら、番組の中で紹介したエピソードや最新の研究がわかったので、そういう問題を通して、視聴者の皆さんに、災害への対応を考えていただけないかと考えた。
  • 「じゃあ、具体的にどうしたらいいのか」というご意見に対して、「そんな簡単に答えが出せるものではない」と答えたが、今回何か具体的な解決策らしきものを提示するにはどうしたら良いかと悩んだ。それに悩んで、きれいな形ができないまま、海外の事例をくっつけて終わったというような見え方になっているとすれば、自分の力不足だと思う。
  • 自然現象から何か国家の混乱につながる、自然の変革によって国難までにいってしまうという部分を、おぼろげながら見せられないかというところからスタートしたので、なかなか今学術的に議論されている国難と結びつかないという部分は、次を作る時にどういう風に消化したら良いのか、まだ答えが出しきれていないところ。今後もう少し深めてみたい。

以上