第612回番組審議会は2月13日(金)に開かれました。出席委員と当社出席者は以下の方々でした。
〔委員〕
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〔当社側〕 脇阪 聰史 社長、 松田 安啓 常務取締役、梅田 正行 取締役、 岩田 潤 編成局長、岡田 充 コンプライアンス局長、 矢島 大介 ニュース担当部長、 半田 俊介 ディレクター、 戸石 伸泰 事務局長、野条 清 事務局員、 北本 恭代 事務局員 |
審議課題
「エール1.17 警鐘×継承 ~減災で未来を生き抜く~ 第2部」
<事前視聴 1月17日(土)正午~午後2時30分放送>
番組の良かった点
- 『警鐘×継承』というタイトルがうまい。『減災で未来を生き抜く』というサブタイトルもズバリその通りと思った。
- 『警鐘×継承』というタイトル通りの構成になっていた。偏らないテーマで多岐にわたっており、それぞれすんなり見られたという意味ではすごく良かった。
- 2時間半、アッという間に見終わった。非常に引きつけられる良い番組だった。阪神淡路大震災を経験した人にはそれぞれの思いがある。あまりまとめすぎると平板に見えてくるので、ああいう構成は非常に良かったのではないか。
- 東日本大震災以前・以後で、ものごとを見る目線が大きく変わったといわれる。すると阪神淡路大震災の文脈はどうなるのか。この問題については、歴史的な思考とともに哲学が必要。どうやって俯瞰的にこの20年を見るかは、誰がやっても難しいと思う。タイトルの『警鐘×継承』の部分が視聴者に伝わっていれば成功かなと思う。
- 番組キャスターの堀江政生アナウンサーが自ら取材しているというのは、非常に好感が持てて、地元局ならではと思った。
- 堀江アナウンサーとNPO「阪神淡路大震災1.17希望の灯」の堀内正美代表理事の信頼関係が伝わってきたのが良かった。堀内さんという現場で活動してきた人のメッセージが強く伝わる部分がしばしばあったのが良かった。
- 小学生の時に被災し同級生を亡くした女性が、結婚と出産を経験して言った「地震を憎いとか悲しいとずっと思ってきたが、子どもができてから地震のおかげと口に出していえるようになった」という言葉に深いものを感じた。またスタジオ出演の大学教授の「死者と一緒に我々は生きている」という言葉にとても納得した。
- スタジオ出演の大学教授が、被災直後の公園で凧揚げしている人に、「何故凧を揚げているのか?」と聞いたら、「死んだ人と心が結ばれるような気がして」といわれたという話を紹介していたのが非常に印象に残った。
- 被災者が震災直後に言った「マスコミは来ているのに、何故消防車が来ていないのだ!」という怒りの言葉、恒久住宅に入居した被災者が言った「皆で助け合った仮設住宅の方が良かった」という言葉が非常に印象に残った。
- 阪神高速道路の倒壊で亡くなった男性の母親が道路公団を訴えた話は、法的には主張が通らなかったが、それがきっかけで強固な高速道路に変わっていった。こういう話を取り上げたのは素晴らしかった。
- 「復興って何だろう」というのはずっと思っている。神戸市長田区の再開発の話が紹介されていたが、ビルを建てたら金が儲かると勘違いした人がいたのかと思う。結局、儲けたのは土木と建築ではないか。一番考えさせられたのはそこだった。
- 地上波デジタルの双方向機能を使って視聴者に問うた「『継承』あなたが最も伝えたいことは?」というアンケートで、「支え合い」という答えがトップになったが、地域によっては高齢者が多すぎて有事に本当に支え合えるのか議論になっている。また、避難誘導などのため家族構成を調べる際に、個人情報問題にぶつかり、悩んでいる地域も多い。
番組の課題
- 今、災害を語る時、どうしても東日本大震災と関連づけて考えざるをえない。そうした場合に、阪神淡路大震災で得た教訓がその後どういう形で生かされたのかについてもう少しあった方が良かった。
- 仮設住宅で独居高齢者の見守りをしていた被災男性が「これが経済大国日本の姿か」という言葉がすごく重くて、番組全体を象徴していると感じた。だが、その後、小田実さんの話や村山富一元首相の話になり、転調していったのが気になった。もっと被災者の生の声を聞きたかった。
- 20年間の総括で色々話が出てくるが、バラバラすぎたのではないか。例えば、前半を次の災害への「警鐘」、後半を語り継ぐ「継承」と分けてまとめることが必要ではなかったか。
- この20年をどう見るかということで番組は作られているが、神戸の大災害では、昭和13年の阪神大水害や昭和20年の大空襲もある。要するに、世界の様々な都市は何度も復興を重ねてきていて、前の復興のことを忘れる。様々な災害に対して備えるという大きな流れの中で、次世代に託していく「継承」が非常に重要。
- 当時の村山首相は、自分はうまく統括できないといって、当時の小里貞利大臣に復興策の全権を任せた。色々な評価があると思うが、すごいことだった。しかし、そこら辺の小里元大臣のご苦労は紹介されていなかった。
- 義援金の行方が昔から気になっている。どのように使われているのかを、テレビはもっと伝えて欲しい。復興となった時に、私たちには何ができたのかというのが見えたら、次につながっていくと思う。
- 災害は当然起こることとして、被害をより少なくしようというのが「減災」。それは技術的なことだけではなくて、人々の意識を変えることも大切。「減災」というキーワードを出すのなら、もっと色々なパートで展開の仕方があっただろうと感じた。
- 長田区の再開発問題にものすごく興味を持った。これまでも報道されていたが、今回は問題点がしっかり浮き彫りになっていた。また、都市計画が専門の大学教授が「例えば大学を誘致するとか」などの提案をしていたのも面白かった。問題提起だけでなく、あのような提案がもっとあったら良かった。
- 神戸市長田区の再開発の話は、今後どのように「減災」を取り入れた再開発をするかという議論をすべき。この地区は、震災前から再開発計画があって、一世代古い街作りのままで再開発しているというのが問題の本質。行政批判するのは良いが、次の提案がなかったのが残念。
- 20年目なので、番組内のCM(コマーシャル)にも、神戸の20年に対するメッセージを入れてくれたら良かった。1社だけ地震保険のCMがあったが、それ以外は普通のCMだった。せっかくの特別番組なのに残念。
- 孤立死・孤独死も、長田区の再開発も、日本社会全体の問題点の先行事象として現れて、凝縮されているところがある。他人事ではなく視聴者に考えてもらうには、震災経験があるとかないとか関係ないという切り口が大事。
- 阪神淡路大震災を知らない世代がどんどん増え、比例して興味も薄れていく。興味を持って見てもらうという工夫が必要ではないか。
- 風化は必ずしていくし、少しでも残すべきものを残すという意味では、こういう番組の価値は非常に高い。来年、再来年も残していって欲しい。ただ、5年後、10年後に、これをどういう人たちにどう伝えていくかというのは全く変わってくると思うので、そこを掘り下げていってもらいたい。
番組制作側から
- 神戸市では、既に阪神淡路大震災を知らない世代が4割以上になっているが、実際に神戸を歩くと、今でも孤独死が絶えないし、二重ローンで困っているなどの声が聞こえてくる。色々なことが総括されずに来ている部分があり、まずそれに「警鐘」を鳴らしたかった。その上で、地元局の責務として、語り継ぐことを「継承」していく決意を示したかった。
- ディレクターは1998年入社で、阪神淡路大震災直後の取材を知らない世代。彼は、この番組を制作するに当たって、20年を総括するためにどんなテーマを取り上げれば良いのか、最後まで悩んでいた。
- 復興とは何かを番組で問いたかった。そこに住んでいる「人」が、震災前の活力や生きる力を取り戻せるかどうかが復興の目指すべきものだと思うが、実際には、きれいな建物やおしゃれなものを作ることで元通りになったとしている。その辺りを視聴者に考えてもらいたかった。
- 社内的にも、阪神淡路大震災直後の取材を経験した世代が減ってきている。数年すると1.17以降に生まれた人たちが入社してくる。風化させないため、若い記者やディレクターたちに、震災報道の何をどのように伝えていくのかが今後の課題。
以上