第610回番組審議会は11月14日(金)に開かれました。出席委員と当社出席者は以下の方々でした。
〔委員〕
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〔当社側〕 脇阪 聰史 社長、 松田 安啓 常務取締役、梅田 正行 取締役、 岩田 潤 編成局長、太田 充彦 広報局長、 大島 尚 報道局長、平岡 智子 プロデューサー、 座波 貴紀 ディレクター、 戸石 伸泰 事務局長、野条 清 事務局員、 北本 恭代 事務局員 |
審議課題
「京(みやこ)へのいざない」
<事前視聴 9月15日(祝・月)午前10時30分~11時30分放送>
番組の良かった点
- 民放でなかなか見られない番組を作っていることは大変素晴らしいと思う。「朝日放送 文化スペシャル」のような呼び方でシリーズ化したらどうか。さらに「京博(京都国立博物館)に強いのは朝日放送」のような形があっても良いという気がした。
- 構想が発表されて以降、多くの歴史関係者や美術関係者が待望していた平成知新館の概要を紹介する教養番組として、必要かつ十分な内容の番組である。
- 素晴らしい番組だった。これまでの朝日放送の文化財番組の重厚感から、モダンさが加わって新しさを感じた。美術品も多岐にわたっていて、良い意味で軽いタッチで見せてもらい、「こういう風に楽しむのだ」と教えてもらった。
- 1時間が早く感じられた。これまでの文化財取材で蓄積された映像を生かしながら、それとは若干関係ないところまで話を広げて、また戻ってくるという手法で、いわゆる連想ゲームになっているのが良かったのだろう。
- 美術番組は好きで、今回も大変楽しく見たし、1時間があっという間だった。美術品が早いテンポでどんどん出てくるので新鮮な感じがしたが、意欲が先にあって入れ物が一つしかないから溢れているのかなと感じた。
- 展覧会が好きで、テレビでも色々な番組を見るが、今回の番組はそれらと違っていた。一つの展示物について、非展示物を交えて説明し、非常に厚みがあったと感じた。展覧会について、別の視点で番組を見せようという気持ちが大きく現れて、非常に新鮮ではなかったか。
- 源信と原風景である二上山、天橋立を描いた雪舟の視点に関するCGでの解析、子どもたちに風神雷神の手首の描かれ方を紹介するくだり、祇園祭の大船鉾の復活など、博物館内の展示品から話題を広げて、それぞれゆかりの場所で取材した映像を組み合わせて順次見せてゆく構成は、良く練られていたと思う。
- 展示品や収蔵品だけではなく、ジュラ紀の石材を使用した壁面や、発掘された方広寺の柱跡位置をデザインとして取り込む配慮など、谷口吉生が手がけた美しい美術館建築の見どころを紹介しているなど、これから平成知新館への見学を希望する視聴者の興味を引くだろう。
- ナレーションが淡々としていて、途中で男声から女声に替わるのも、めりはりがあって良かった。
- 学芸員や博物館関係者のインタビューなどもなく、主にナレーションだけで進行するが、最後まで興味深く見ることができる構成だった。これまで朝日放送が制作してきた文化財番組の伝統が継承されており、安心して見ることができた。
番組の課題
- 全体的には見やすかったと思うが、盛りだくさんに美術品が出てきてカタログ的な感じがした。そこが非常に残念。それぞれに、もう少し物語性があった方が良かったのではないか。
- 祇園祭など色々なものが出てきて話が飛ぶし、展示していないものもどんどん出てくる。その辺、何がいいたいのかがよくわからない。京博のPRなのか、歴史とか文化がこれだけ京都にはあるのだから「みやこへおいでよ」ということにもかけていっているのか、とにかくもう一つすっきりしなかった。
- 番組名『京(みやこ)へのいざない』は、企画展のタイトルと同じ。企画展の紹介という面もあるが、京博全体の紹介のようでもある。一方、京都だけでなく、それに関わる歴史の紹介のようでもある。どれなのかという感じで、もう少しそぎ落していった方がもっと印象に残る番組になったのではないか。
- 美術品によって展示期間のスーパーが出ていたが、「10月15日から」とあったり、「第1期○○日まで」とあったり、覚えきれないし、よくわからなかった。
- 謎解きの部分で、雪舟の「天橋立図」の話は面白かった。しかし、「阿国歌舞伎図」は何がやりたかったのか? 僧侶がお忍びで歌舞伎見物に来ている話、阿国とお稚児さんの唇に吸われた跡がある話など、もっと謎解きしてくれないとわからない。
- 廃仏毀釈で京都博物館が頑張ったという話があった。壊されたり海外流出したりする仏教美術品を守る動きは、元々は現在の東京国立博物館にもあって、京都はまた違う動きがあったわけで、何故、京博に色々なものが収蔵されたのかという歴史的な話をもっと知りたかった。
- ドキュメンタリー的にするなら、廃仏毀釈のことをもっと広げると思う。バラエティ的にするなら、プロデューサーがいったように「謎解き」だろう。今回の番組では、冒頭で色々な美術品を紹介して、後半から急に謎が出てくるのだが、深く掘り下げていない。掘り下げる時間がないなら、いっそ美術品紹介番組と割り切ってしまった方が良かったのではないか。
- 明治時代にさかのぼる京都国立博物館そのものの歴史と存在意義を、わかりやすくまとめている点も良かったと思う。ただし当初、西洋風の建物は「京都には似合わない」と反対運動があったというエピソードや、国立施設として再出発、多くの国宝や重文を新たな収蔵品とした戦後の活動も省かれていると感じた。平成知新館の前身建物である新館(森田慶一設計)についても触れて欲しかった。高度経済成長期に新館を建設した社会的背景、および老朽化した新館を解体して新たな展示施設を建設する必然性に関して説明があれば、平成知新館が担う役割を伝えることができたと思う。
- 博物館学を研究している同僚によれば、ガラスケースに入れない展示の仕方は注目されるべきことで、番組初めに紹介された仏像がガラスケースに入っていないのはものすごく画期的。そういうところにも触れてもらえれば、なお面白かったと思われる。
- 新しい平成知新館の内部はよくわかったが、本館の内部も多少で良いので紹介して欲しかった。本館は片山東熊が設計して云々という話だけだったので、ちょっと寂しかった。
- 本館の「鳥獣戯画展」は既に大々的に報道されているので、この番組で取り上げるなら、プラスアルファのことを別の視点でいわなければ、カタログの一つでしかない。しかも「鳥獣戯画」の説明は全く不十分で、何も伝わらない内容だったと思う。
- 朝日放送のこれまでの文化財番組と違って、ナレーションが多かった気がする。新しい文化財番組への挑戦だと思うが、語りを多くするのであれば、語る声や語り方にもう少し工夫が欲しい。BGMの使い方もおざなりに感じた。
- テレビは、視聴者に考えさせるべきだが、「何がいいたいのか? 何を見せたかったのか?」という困惑を感じさせてはいけない。そこのところで今は試行錯誤だと思った。
- この種の番組では、スタッフや関係者を紹介するエンドロールを、ドラマやバラエティのように高速ではなく、ゆっくり流しても良いのではないか。協力社寺の名称など、きちんと読めるように配慮しつつ、番組そのものの余韻を持たせるような演出があって良い。
番組制作側から
- 文化財番組担当だったベテラン社員が退職した。今回その後を引き継ぐということで、一番やりたかったことは、新たな試みとして謎解きの要素を入れること。雪舟の「天橋立図」はどうやって、どこから描いたのか? 「阿国歌舞伎図屏風」は、誰がどういう意図をもって描かせたのか? これらの謎を通して新たな視点で美術品を見ると、もっと面白いのではないかということを伝えたかった。
- カタログ番組から脱却したいと思っていたが、カタログ的なものプラス謎解きで、途中状態のものしかできなかった。本来はどちらかに軸を決めた番組にするべきだった。
- ドキュメンタリーか、エンタテインメントかというのではなく、融合したものができたら一番面白いのではないか。それは当社にはあまりないジャンルなので挑戦してみたい。
- 展示期間のスーパーの件は、美術品の撮影後に展示期間が変わるなど、最後の最後まで訂正が入ってきた。見に行った人が見られなかったということにならないようにスーパーを入れた。かえって混乱したかも知れないが、そこはすごく苦労した点だった。
- 関西の放送局にとって、京都や奈良の文化財には非常に大きなコンテンツ価値があり、今後放送媒体以外でも沢山の利用価値があるものだと思う。海外発信も十分できるし、古いものだが、新しい技術的なことに色々挑戦できるコンテンツだと思う。
- 今回は4Kカメラや、スタビライザーのついた揺れないカメラ、マルチコプター(リモコンのヘリコプター)による撮影という新技術も使った。4K映像は地上波テレビではまだ放送の予定がないが、文化財を後々に伝えていくライブラリーの意味もあると考え4Kカメラを使用した。
以上