第609回番組審議会は10月10日(金)に開かれました。出席委員と当社出席者は以下の方々でした。

〔委員〕
井野瀬 久美惠 委員長、酒井 孝志 副委員長、
道浦 母都子 委員、星野 美津穂 委員、
橋爪 紳也 委員、淺井 栄一 委員、
高見 孔二 委員、小松 陽一郎 委員、
池内 清 委員、水野 由多加 委員

 

 

〔当社側〕
脇阪 聰史 社長、
松田 安啓 常務取締役、梅田 正行 取締役、
岩田 潤 編成局長、太田 充彦 広報局長、
森本 茂樹 スポーツ局長、三好 康嗣 スポーツ部長、
東野 裕 プロデューサー、池田 康晴 プロデューサー、
戸石 伸泰 事務局長、野条 清 事務局員、
北本 恭代 事務局員

審議課題

「熱闘甲子園」
<事前視聴 8月18日(月)午後11時10分~11時40分放送>

「高校野球スペシャル~この夏、涙は輝いた~」
<事前視聴 8月29日(金)午前10時30分~11時30分放送>

番組の良かった点

  • 本当に密着して取材していると感じた。ノンフィクションで、瞬間だから、それらを映像に記録していくのは大変だと思う。たぶん結果的に無駄になる映像もものすごくあったと思う。そこを、一所懸命カンを働かせながら、あるいは先読みしながら映像化しているのが両番組ともすごい。
  • 高校生が、言葉豊かに、すごく自由に語っていることが印象的だった。むしろアナウンサーの方が硬かったと感じた。今年の大会はヒーローがいないといわれたが、観客もすごく多く、高校野球らしい大会だったと思う。両番組もそういう感じになっていて感心した。
  • 『熱闘甲子園』は、今回も満遍なくマネージャーとか、キャプテンとか、台湾からの留学生とか、超スローボール投手とか、ヒーローはいないが様々な人を探して、それらがきちんと物語になっている。甲子園は、誰を撮っても物語を持っている、そういうステージなのだなと改めて思った。
  • 『熱闘甲子園』は本当に泣かせてくれる番組。コンテンツとして素晴らしいので、ずっと続けてもらいたい。
  • 感動したのは、選手たちがいう「感謝」という言葉。言葉だけでなく、球児が祖父、祖母がいるスタンドに向けてお辞儀をする場面などに心を洗われた。
  • 球児たちは、甲子園の大声援にエネルギーをもらって戦い、試合後はすごくたくましくなっているし、大人になっている。あの力はすごいと思うし、そういう姿に勇気づけられる。
  • スポーツは、放送コンテンツとして元々非常に価値が高いが、その中でも夏の高校野球は特別。もちろん技術的に見て高校野球はどうなのだという話はあると思うが、教育とか人格形成とか人間模様、そういうものが老いも若きも引きつけている。それをコンテンツとして持っている朝日放送は非常に良いポジションにあるといえ、それを大事にすることが何よりも重要。ハード面でもソフト面でもさらに磨きをかけていって欲しい。
  • 系列外のネットしていない局も含めて全国で連携するというのは他ではないのではないか。また、スポンサーとしては非常に価値が高く、企業イメージと番組のコンテンツがうまくつながっていると思う。こういうノウハウはスポーツ以外の分野でも応用すべきだろう。
  • 選手も、スタンドで応援している人たちも、テレビを見ている我々も、なかなか出会えない人生で一度の瞬間を経験する、目撃する。そこには己もないし、完全な無心、それが全部伝わってくる。そういう意味で高校野球は素晴らしく、平和のありがたさを感じた。

番組の課題

  • 夏の高校野球は独特の世界。負けたら3年生は終わり。だから最後の一球まで緊張感がものすごい。そこが他にない魅力。その緊張感を凝縮しているのが『熱闘甲子園』。だから、そぐわないエピソードは必要ない。逆に、せっかく取材しているのに扱いが小さく、もっと見たいエピソードがあった。
  • 『熱闘甲子園』は事前に取材したものが面白い。そういう中に大垣日大高校と三重高校の幼なじみ対決というのがあったが、試合経過を伝えた後にチョロッと紹介しただけだったのはもったいなかった。幼なじみなのに違う高校へ行ったのは何か理由があったはずなのに全部省略していた。ここまで取材しているのにと思った。
  • 新キャスターの若い二人は堂々としていて、でも初々しさもあって、感じが良かった。しかし、思うことを素直にいっているようには見えなかった。型にはまっているというか、自由感がないというか、そんな感じに見えた。
  • 『熱闘甲子園』は、辞めた長島三奈さん自身が取材していたものがすごく良かったが、そういう部分がなくなった。これから新キャスターで築きあげていくのだろうが、これまでと雰囲気が変わったと感じた。
  • 長島三奈さんがいなくなったから特に感じるのかも知れないが、甲子園は男性の世界で、なかなか女性が画面に出てこない。女性の登場の仕方をもう少し考えてもらえれば嬉しい。
  • 『熱闘甲子園』キャスターの工藤公康さんは、選手時代も好きだったが、解説が非常に明快でわかりやすく、スポーツ選手らしい明るさがあって、見ていて気持ちの良い方だと思う。ただ、工藤さんの本当の良さを出しきれているのだろうかというのはちょっと感じた。
  • 今年は雨の大会だったので、甲子園のグラウンド整備を担当する阪神園芸の人たちのプロの技が、実は大きな支えになった。スペシャル番組では、彼らの話もどこかにあったら良かった。
  • 何でも東京一極集中の世の中で、全国のまなざしが集まり続けたのが甲子園。何故、甲子園に全国のまなざしが集まり続けているのかという解説を、もっとやってもよいのではないか?朝日放送はその解説をやり続けることができる。そういう機会が甲子園関連の番組だと思う。
  • 最近はテーマ曲のタイアップ色が強まってきている。NHKも含めて同じようになってきて、大きなスポーツ大会がある度に、番組冒頭に有名歌手のタイアップ曲が流れてくる。『熱闘甲子園』には、そういうものから抜け出るような曲の使い方があるのではないか。
  • ホームページを見ると、色々なビジネスがやたらに展開されている。バーチャル高校野球のサイトから、過去の『熱闘甲子園』のDVD、全試合DVD、ねったまくんグッズなど。商品とか派生するコンテンツのビジネスというところに行けば行くほど、何か高校野球の純粋さが失われていくように見える。

その他

  • 高校野球中継では、アナウンサーにあまり偏ったコメントをして欲しくない。プロ野球中継とは違うのだから、関西のチームが来たからといって関西寄りになる必要はない。

番組制作側から

  • 『熱闘甲子園』で15年間にわたってキャスターを務めた長島三奈さんが番組を離れたため、キャスターとして3年目になる工藤公康さんとテレビ朝日の若手アナウンサー二人というかなり思い切った起用を行った。
  • 去年までのスタジオは、どちらかというとVTR間のつなぎのような位置づけで、あまり出番が長くなかったが、今年はスタジオ色をしっかり出したいということで、セットも大幅に変えた。
  • 長島三奈さんがいなくて寂しいとか、彼女の空気感を見たいという視聴者意見があったのは事実。そこで、彼女がいなくても、彼女がやってきたサイドストーリーを充実させようとした。それらを新キャスターに紹介させることは、あまり出すぎるのも良くないので、少しずつということでやっていった。新しい『熱闘甲子園』を徐々に築きあげていくという考えでやっていけたらと思っている。
  • 工藤公康さんは『熱闘甲子園』キャスター3年目だが、実は球児への取材は今年まで直接できなかった。プロ野球と高校野球の規制があり非常に苦労されてきた。今年は規制緩和で、プロとアマの指導者講習を受けるなどすれば直接取材できるようになった。そういったものが今回スタジオ部分にも色々出たのではないか。
  • 関東でどう視聴者をつかんでいくかということもテーマで、ティーン(13~19歳男女)、F2(35~49歳女性)、F3(50歳以上女性)が去年に比べて割と良かった。ティーンに関しては、「番組を見て泣きたい」という事前調査結果が出ていたので、しっかり感動できるところを作ろうと考えた。すると、Twitterなどで「きょうの『熱闘』のこの話は泣ける」のようなツイートがあって広がっていった。
  • 取材が番組の生命。前年秋にスタッフの中心メンバーが決まり、年明けから取材を始める。関係作りや冬にしか撮れない映像があるため。無駄になる取材も多いが、それでも取材するのは、それだけの意味があるから。取材に関わっているのは系列各局含め50~100人で、同時に動いている。
  • 今年は、注目のヒーローたちの多くが地方大会で敗れ甲子園に来られなかった。そういう意味では番組にとって逆風だったが、逆にヒーローに縛られることがほとんどなく、純粋に球児たちのプレーやドラマを取り上げることができて、高校野球らしさが伝えられたのではないか思う。
  • 高校野球コンテンツに関しては、地方大会にも力を入れてやっている。『甲子園への道』という番組を7月から放送しているが、その中に「ラストミーティング」という企画がある。地方大会で負けていった監督の最後の話、選手の家族への感謝の言葉を集めたコーナー。高校野球には無限大にそういう切り口があると思うので、原点に帰って頑張っていきたい。
  • 高校野球に関しては非常に良いアーカイブもあるので、過去の名勝負を色々な番組で紹介する機会を設けて、高校野球全体を盛り上げていきたいと思っている。
  • 実は高校野球は儲からない。その中で歯を食いしばってやっている。DVDについても赤字。けれども入社試験時、学生たちに志望動機を聞くと、「高校野球をやっている会社だから」という人が多い。ブランディングという意味ではものすごく大きなことだと思う。甲子園であり高校野球というのは関西が誇る全国区の大きなソフトで、絶対火を消したくないと思っている。

以上