第600回番組審議会は11月8日(金)に開かれました。出席委員と当社出席者は以下の方々でした。
〔委員〕
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〔当社側〕 脇阪 聰史 社長、和田 省一 副社長、 松田 安啓 取締役、梅田 正行 取締役、 岩田 潤 編成局長、山本 泰弘 広報局長、 大島 尚 報道局長、藤田 貴久 報道企画担当部長、 鍋沢 由修 制作技術担当部長、 戸石 伸泰 事務局長、野条 清 事務局員、 北本 恭代 事務局員 |
審議課題
テレメンタリー「知る重み~出生前診断 家族の葛藤~」
<事前視聴 9月15日(日)午前5時20分~5時50分放送>
番組の良かった点
- テーマの新型出生前診断(妊婦の血液から胎児の染色体や遺伝子を調べる検査)は4月から制度として始まったが、日本では議論が足りていない。ドイツでは既に、こういうケースについてカウンセリングする機関があると聞く。この番組を見て、医者と親の話し合いだけで中絶が認められて良いのか、その是非を相談し考えるという制度、仕組みを社会的に作るべきではないかということも考えた。
- この番組の問題提起は非常に重い。どの段階から命なのか?受精卵からか、こういうことも考えなければいけない。日本には母体保護法があるが、親が勝手にあれこれ決められるのだろうか?また、デザイナーベビーの問題にもつながってくると思うし、進歩する技術をどう使うかという問題も、この番組は投げかけている。
- 人の命の問題を、親がジャッジするというのは非常に厳しい話で、途中で正直見るのがつらかった。ただ最後に、出産を選んだご夫婦が「知ることができて良かった」と話し、赤ちゃんが泣きだす場面に救われた。
- 産むのか産まないのか正解のない問題だが、感動したのは、姉になる子どもの「弟か妹を欲しい」という言葉に家族皆が動かされた場面。そこに全ての本質があるような気がした。そこをクローズアップしているのが素晴らしかった。
- この手の取材は、取材を受ける方をいかにつかまえるか。しかも新聞だと写真は後ろ姿などでしのげるが、テレビの場合はそうはいかないので大変だったろうと思った。敬意を表したい。
- ある選択を正解と思うしかないような状況の中で、そういう決断プロセスをテレビが出すことの意味について考えさせられた。逆に問い直すと、テレビの役割とは何か?結局は、地上波テレビの番組が一番身近なところにあるからできるテーマだと思った。テレビの役割の一つが凝縮されている気がした。
番組の課題
- 「新型出生前診断をどう思うか?」と問う番組だと思うので、最後にメリットとデメリットをはっきりいって欲しかった。丁寧に作っていることはわかるが、そこをいわずに終わっているような気がする。
- 「出生前診断をどう思うか?」という問い自体が変だと思った。科学技術の進歩は受け入れなければいけないと思うから。出生前診断をどう思うかというより、「中絶」が8割、「産む」が2割という結果をどう思うか問う方が理解できた。ちなみに私は、この数を正当な値だと思った。
- このテーマはもっと深く掘り下げて欲しい。例えば医学が進む中で、知能指数の良い子だけを産んでいくというような、その一線をどう考えるのか?精度が上がったとはいえ100%ではない判定結果で判断するということをどう考えるのか?
- 30代後半での初産が多くなっている中で、今回のテーマを家族や個人の負担の話だけで終わってしまって良いのか?ダウン症や障害者の方々が生まれた後の現実はどうなっているのか?社会的なサポートの仕組みはどうなっているのか?関連して取り上げてもらいたいテーマがいっぱいあると思った。
- 女性の高齢出産がかなりこのテーマと重なっていて、働く女性の問題と直結している気がした。その辺りをもう少し掘り下げて欲しかった。
- 出生前診断については倫理上、賛成論と反対論がある。番組ではどちらも取り上げていなかったが、インターネットなどで色々指摘されているのが現状。その辺の情報提供も、宗教家の意見も含めてしてもらったら良かった。
- 来院する1割に何かがあり、このうち8割が中絶するという数字をどう考えたら良いのだろう。ダウン症でも立派に生きている人はたくさんいる。戸惑いを覚えた。
- 考え方が色々あって、決断も色々あって、その全てが正解であり、その全てが間違っているかも知れないというものについては、なるべく沢山色々なパターンを紹介していくしかないと思う。一つを追いかけるというのは、そうではない決断をした人にとってはかなりつらいことになるので。
- 産む選択と産まない選択があって、産む選択をした方はすごく立派だと思うが、中絶した方も大変な葛藤があっただろう。しかし中絶した方の映像が少なかった。産めるか産めないかは、人間性の問題ではなく、環境の問題。どちらの選択も正しいと思った。
- ドキュメンタリーと報道番組はどう違うのか?客観的事実を並べながら、両論併記の形なのが報道番組。ドキュメンタリーはそうではなく、作家性が非常に際立つはず。要は番組の中でどういうメッセージを伝えるのか。テレビのドキュメンタリー番組とはどういうものかをいつも思う。
- 朝の早い時間にこのテーマは、なじまないような気がした。また、良い番組であればあるほど、再放送など多様な放送をして欲しい。
番組制作側から
- 今年4月から始まった新型出生前診断を実際に受けた場合、どういう現実が待ち受けているのか、現状をきちんと世の中に知ってもらった上で、受けようという人たちの理解を深めてもらいたいと思って作った番組。
- 反対論・賛成論があるのはもちろん知っている。ニュースかドキュメンタリーかの問題でいうと、ニュースならばたぶん両論併記的にやると思うが、この番組は、決断をした人の物語というところから、にじみ出てくることを感じて欲しいと思って作った。
- テレビにとって非常に取材しにくいテーマ。担当ディレクターは27歳の女性で、診断を専門的に行っているクリニックに通って、何度も追い返されながら、それでも勉強を重ねて食らいついて、ようやく取材の許可を得て、実際に診断を受ける方々への取材のお願いも延々続けて、ようやく番組ができあがった。
- 産む決断も産まない決断もどちらも正解だというのは、担当ディレクターも同じ思いで作った。
- 担当ディレクターが、妊婦の方に寄り添えるくらいまで関係を作ってくれたので、かなりのところまでカメラを入れることができ、現実をとらえることができたと思う。これからもずっと寄り添っていくと思う。
- 報道局としては、もっとドキュメンタリーを作る裾野を広げたいということで、若い人にもどんどん作ってもらおうと考えている。やってみると、若い人は若い人で考えがあって、熱意もある。特に今回は、ドキュメンタリー取材の基本である相手に対する信頼性を勝ち得て、非常に難しい取材に成功してくれたと思う。
- ドキュメンタリーは放送局の文化だと思う。しかし、作るのが非常に難しい。普段のニュース業務がある中、時間を作って番組作りに励んでいる。
以上